« ハルヒとYoutube | トップページ | らき☆すたで夏の思い出 »

聖地を分析する


観光創造研究No.2≪研究調査報告≫
「アニメ聖地における巡礼者の動向把握方法の検討」
岡本健
2008 年7 月14 日

1.はじめに
1.1. 目的と背景
本稿の目的はアニメ聖地巡礼者の動向を把握するための手法として聖地巡礼ノートの有
効性と課題について考察をおこない、今後の課題を整理することである。
上記のような目的を設定するに至った背景は以下の通りである。
近年、日本においてアニメ聖地巡礼と呼ばれる行為がおこなわれている場所がいくつか
ある(柿崎2005)。アニメ聖地とは、山村(2008)によると、アニメ作品のロケ地またはそ
の作品・作者に関連する土地で、且つファンによってその価値が認められている場所のこ
とを指す。本稿では、アニメ聖地を訪ねたり、その周辺を周遊したりすることをアニメ聖
地巡礼とし、それを行うものをアニメ聖地巡礼者とする。
アニメ聖地巡礼は、その主な動機が、アニメーションに関連する場所を訪ねたい、とい
うことにあると考えられ、当該地域自体がアニメーション関連以外で持っていた魅力によ
って引き起こされた行動ではない可能性がある。そのため、地域住民が自律的に観光現象
をコントロールすることができない可能性や、ブームが去ってしまうと観光地として持続
しない可能性がある。
しかし、アニメーションによって元々主だった観光資源などが無い市町村でも、地域振
興が成立する可能性や、アニメーションを媒介として、地域住民と旅行者のコミュニケー
ションが誘発される可能性も無視できない。旅行者と地域住民双方にメリットがあるよう
なアニメ聖地を成立させるためにはどのような条件が必要になるのだろうか。
その条件を明らかにするために必要な基礎情報の1 つとして、アニメ聖地巡礼者の行動
や態度の把握がある。観光資源が博物館やテーマパークであれば、入場者数は容易に計測
することが可能であるが、アニメ聖地の場合、風景や場所それ自体が観光資源になってい
ることが多く、そこにどれだけの人が訪れ、何をしていったか、を詳細に把握することは
困難である。
また、アニメ聖地巡礼の場合、動機付けはインターネットの情報や、雑誌の特集などで
あるにせよ、ツアーに参加するような性質のものではなく、個人あるいは小集団で聖地巡
礼をおこなうことが多いことも、把握を難しくしている要因の一つであろう。
アニメ聖地巡礼者の行動把握のためには、どのような方法が妥当であろうか。その一つ
の可能性として、本稿では聖地巡礼ノートの有効性と課題を検討する。
1.2. 本報告の位置づけ
アニメーションが旅行動機となり、旅行者が地域を訪れ、その地域が活性化したという
事例の報告は、新聞記事や雑誌記事には掲載されているが、観光研究の分野ではあまり取
り上げられていない。本稿でとりあげる聖地巡礼ノートは、雑記帳やコミュニケーション
ノートと呼ばれる物の一種であると考えられるが、そういった雑記帳やコミュニケーショ
ンノートの分析に関する先行研究は少ない。
また、山村(2008)も指摘しているが、埼玉県鷲宮町の事例は展開が速く、新たな動きが活
発に起こっている。
このような状況下、著者らは2008 年7 月より鷲宮町商工会と「メディアコンテンツと観
光振興(まちおこし)」関する共同研究1を開始した。この一連の共同研究の流れの中で、同
商工会のご協力により、今後の地域振興に対する提言を行うための学術調査目的のみに用
途を限定して、実際のノートの具体的記述内容や個人情報を公表しないことを条件に聖地
巡礼ノートのデータを分析する許可をいただいた。
本稿は「調査研究報告」であり、地域の動向を速報的に伝えることを重視した。そのた
め、本稿における聖地巡礼ノートの分析やそれに対する考察は不十分なものとなっている。
今回検討できなかったところについては、今後、詳細な検討を加えていく予定である。
なお、本調査をはじめ、今後展開する鷲宮町に関する研究成果は、鷲宮町の地域振興に
役立てていただくため、全てを鷲宮町商工会に還元することとしている。

2. 調査の対象と方法
本稿の目的を達成するため、アニメ聖地の一つ埼玉県鷲宮町の事例を分析する。鷲宮町
に関する詳細な記述は山村(2008)に詳しいので、ここでは概要のみ説明し、調査対象で
ある聖地巡礼ノートについて詳細に述べ、聖地巡礼ノート分析の手続きも記述する。
2.1. 調査の対象
2.1.1. アニメ聖地としての埼玉県鷲宮町
埼玉県鷲宮町は、「らき☆すた」というアニメーションのロケ地となり、オープニングの
背景として実際の鷲宮町の風景が使用された。具体的には鷲宮神社と、隣接する大酉茶屋
である。また、主要キャラクターである「柊かがみ」「柊つかさ」の父親が神社の神主であ
るという設定になっているため、元々神社というランドマークとしての機能を持った建築
物に、アニメ聖地としての機能が追加され、アニメ聖地巡礼をおこなう際に欠かせない立
ち寄り場所になっている。
大酉茶屋は、鷲宮町商工会が経営する飲食店であり、そば屋兼甘味処となっている。同
茶屋は神社に隣接する唯一の飲食店であり、「らき☆すた」関連イベントに使用されたこと
もあって、アニメ聖地巡礼者の利用が活発である。
2.1.2. 聖地巡礼ノートについて
本稿で分析する聖地巡礼ノートは大酉茶屋の飲食用のテーブルに置かれている雑記帳で
ある。聖地巡礼ノートは同時に2~3 冊置かれている。現存しているノートは2007 年9 月
22 日から2008 年4 月21 日までの記述があるもの(以下、前期ノートと表記)が2 冊、2008
年3 月23 日から2008 年6 月29 日まで(以下、後期ノートと表記)の記述があるノートが
3 冊である。
前期ノートは、市販されているB5 判の30 枚(60 ページ)のノートである。表紙にはイ
ラストと「聖地巡礼レポート全国の皆さんの交流に、ご自由にお書き下さい。※誹謗
中傷はご法度ですよ!! 大酉茶屋わしのみや」と書かれているが、その他は特に加工さ
れていない。
後期ノートは、市販されているB5 判の44 枚(88 ページ)のノートである。表紙にはイ
ラストと「鷲宮神社前大酉茶屋NO.2 ご自由にお書き込みください」と書かれてい
るが、その他は特に加工されていない。
2.2. ノート分析の手続き
前期ノートをそれぞれ1-A,1-B と名づけ、後期ノートをそれぞれ2-A,2-B,2-C と名づけ
た。今回は1-A に関して分析をおこない、書きこみの頻度、書きこみの内容を整理した。
2.2.1. データの抽出
聖地巡礼ノートを分析するにあたって、基礎的なデータベースづくりを行った。書き込
みに対して、書かれている順にIDを付与した。今回データを抽出したノートは1-A であ
るので、IDは1-A-1, 1-A-2, 1-A-3…、とした。日付は記述者が書き込んでいる場合それ
を記録し、日付が書き込まれていない場合は不明とした。ノートの初めのページを1 ペー
ジとし、順にページ番号を付けた。
2.2.2. 書き込み内容の整理
書き込みの内容を整理した。その際、全体像を把握することに重点を置き、下記(1)~(9)
の9 点に注目して整理をおこなった。以下で9 点の注目点について説明する。下記の説明(1)
~(9)は結果をまとめた表の最上段に表記されている(1)~(9)と対応している。
(1)サイン
書き込みの中に、記述者を示すサインが存在するかどうかに注目した。ニックネームな
ども含めて、記述者を示すものであると判断できた書き込みには、○を付した。
(2)イラスト
書き込み中のイラストの有無に注目した。イラストがある書き込みには○を付した。ま
た、複数のイラストが同一書き込みの中に認められた場合は、その数を数字で表した。
(3)来訪回数
書き込みの中の来訪回数を示唆するコメントの有無に注目した。「初めての聖地巡礼」「何
度も来た」「○回来た」などの来訪回数に関するコメントがある書き込みには、○を付した。
(4)神社(鷲宮町)の感想
書き込みの中の神社の感想や、鷲宮町全体の感想を述べたコメントの有無に注目した。
「神社が面白かった」「鷲宮町の雰囲気が良かった」「町の取り組みは面白い」などのコメ
ントがある書き込みには、○を付した。
(5)大酉茶屋
大酉茶屋に関するコメントを下記3 点に注目してまとめた。
(5)-1 注文した料理
何を注文したかを書いてあった場合、○を付した。
(5)-2 料理の味
食べた料理の味に関する感想が書いてあった場合、○を付した。
(5)-3 店の感想
店内の雰囲気や店員に関するコメントが書いてあった場合、○を付した。
(6)アニメーションに関する記述
アニメーションに関するコメントを下記2 点に注目してまとめた。
(6)-1 らき☆すた
らき☆すたに関するコメントが書いてあった場合、○を付した。
(6)-2 それ以外
らき☆すた以外のアニメーションに関するコメントが書いてあった場合、○を付した。
(7)どこから来たか
書き込みの中の、どこから大酉茶屋に来たかを示唆するコメントの有無に注目した。「○
○県から来ました。」「コミケの帰りに寄りました。」などのコメントがある書き込みがあっ
た場合、○を付した。
(8)再訪の意思
書き込みの中に、再訪の意思を表明しているコメントに注目した。「また来ます」「次に
来る時は○○をしたいです」などのコメントがあった場合、○を付した。
(9)地元
書き込みの中に、地元の地域住民であることを示唆しているコメントに注目した。「地元
民です」「近くに住んでいるのですが」などのコメントがあった場合、○を付した。
3.結果
1 ページあたりの書き込み数、書き込み数の月別推移、書き込み内容の整理をおこない、
その結果を以下に示す。
3.1. 1 ページあたりの書き込み数
1 ページあたりの書き込み数の平均値、最小値、最大値、標準偏差は表-1 に示した。サン
プルとして書き込みのあったページを扱ったところ、60 のサンプルを得た。1 ページあた
りの書き込み数の最小値は1、最大値は7であった。1 ページあたりの書き込み数の平均値
は3.4 で、標準偏差は1.77 であった。
3.2. 書き込み数の月別推移
書き込み数をカウントし、月ごとに整理した。書き込み数の合計は202 であった。日付
が不明な書き込みに関してはその直前の日付と同一であるとしてカウントした。書き込み
数を月ごとに整理した結果をグラフ化し、図-1 に示した。縦軸は書き込みの数、横軸は書
き込まれた年月を示している。
3.3 書き込みの内容
2.2.2 で記述した書き込み内容の整理方法を用いて、書き込みの内容を整理した結果の一
部を表-2 に示した。1-A に関して整理をおこなった結果の全てを付表に示した。

4. 聖地巡礼ノート分析の有効性と課題
前章までで、聖地巡礼ノートを分析し、全体像を把握することができた。本章では、聖
地巡礼ノート分析の有効性と課題について検討を行う。
4.1. 聖地巡礼ノート分析の有効性
アニメ聖地巡礼者の動向を把握するための方法としての聖地巡礼ノート分析の有効性を
検討すると、大きく分けて以下の3 点が考えられる。
1 点目は、聖地巡礼ノートは、長期間同じ場所にあり、ノートへの記入時間も制限がない
ため、量的にも質的にも多くの情報量が得られる点である。具体的には、ノートへの書き
込み件数・分量の多さ、イラストなどの文字以外の情報、などが挙げられる。
調査票やインタビューでは、調査者が必要とする情報を効率良く取得することを目的と
していることが多い。あるいは、記入時間・記入スペースが限られていることもあり、得
られる情報量が限定されている。また、質問に回答する形式が多く、その質問に関連する
回答を得ることができるが、それ以上の情報は得られないことが多い。
アニメ聖地巡礼行動はまだ明らかになっていないことが多くあるため、質問項目を限定
した調査票を作成することは難しい。むしろ現段階では、量的にも、質的にも多くの情報
量を得、整理することで、そこから課題を発見すべきであろう。
2 点目は、旅行者の本音に近い記述を得ることができる点である。具体的には、口語体に
よる記述形式、匿名性の確保、イラストの描写などが挙げられる。
調査票やインタビューでは、調査者の力量によって得られる情報の質が変わってくる。
特に調査票であれば、前述したとおり、調査者が必要な情報を得るために質問形式である
ことが多く、それに回答する範疇を出た情報は得られない。また、改まった調査やインタ
ビューであれば、旅行者に構えさせてしまい、本音が引き出せないこともある。
また、ノートとして一定期間置かれているので、他コメントに対してさらにコメントを
付与するケース、同一の巡礼者が何度も来て書いていくようなケースを見ることができ、
巡礼者同士がお互いをどのように認識しているのか、巡礼行為は巡礼者のライフスタイル
にどのように位置づけられているのかを知る上で有用な情報となる。
アニメ聖地巡礼行動では特に、個人や小集団で自由に巡礼する場合が多いと考えられる
ので、改まった形式の調査票やインタビューなどではなく、巡礼者がリラックスして書く
ことができる媒体を分析することで、巡礼者の行動や態度を把握するために必要な基礎情
報や、仮説を発見するための基礎情報を得ることができる。
3 点目は、調査コストが低い点である。
調査票やインタビューを行う際には、コストがかかる。特にアニメ聖地巡礼行動では、
前述したとおり、個人や小集団で自由に移動していることが多いため、全体像を把握する
ためには大量の調査票が必要になることが予想されるし、インタビューを行うとすると複
数人の調査者が、同一地域に、長期間にわたって滞在する必要がある。
聖地巡礼ノート分析であれば、ノートの設置場所やノートの管理が適切になされれば、
低コストで大量の情報を手に入れることが可能である。
4.2. 聖地巡礼ノート分析の課題
聖地巡礼ノート分析の課題を検討すると大きく分けて以下の3 点が考えられる。
1 点目は、書き込まれている情報の信憑性の問題である。聖地巡礼ノートは自由な書き込
みの場であるので、書き込まれている情報の扱いに関しては吟味が必要であろう。書き込
みが事実に即したものであるとは限らないため、日付やどこから来たか、どこに行くのか
などについての書き込みについて、事実を反映しているかどうかを判断する際には慎重な
検討が必要となる。
それゆえ、書きこまれている情報に関しては、記述者がそのように記述した、というも
のであることを考慮に入れて分析する必要がある。
2 点目は、ノートに書き込んでいない巡礼者のデータが得られない点である。まず大酉茶
屋に入らずに聖地巡礼行動をおこなっている巡礼者のデータは得ることができない、加
て、大酉茶屋に入ってもノートを手に取らない、ノートを他の人が使用している、ノート
に気づかない、ノートに書き込む気持ちがないなどの理由によりノートにコメントを書き
込まない巡礼者のデータも得ることができない。
それゆえ、ノートに書き込まれた情報は、「大酉茶屋に入り、ノートの存在を認識し、書
こうと考え、それを実行した巡礼者」から得られるデータであり、上記条件に合致する一
部のアニメ聖地巡礼者のデータであることは分析の際に考慮する必要がある。
また、聖地巡礼ノートを分析することでアニメ聖地巡礼者全体の行動を把握するために
は、鷲宮神社を訪れた巡礼者の何割が大酉茶屋を利用し、その中の何割がノートに書き込
みをするのかについて、調査・分析が必要になる。
3 点目は、研究倫理上の問題である。聖地巡礼ノートは、調査票やインタビューとは異な
り、調査研究の目的でコメントを利用することに関して巡礼者の承諾を得ていないので、
分析・発表をする場合倫理面の注意が必要となる。
聖地巡礼ノートは、もともと他者に見られることを想定して書かれていると考えられる
ので、プライバシーに関して、記述者の一定の理解は得られているものと考えられるが、
分析結果は、個人が特定できないような形で公表するべきであろう。また、書かれている
イラストに関しても、非常にクオリティの高いものもあり、同人誌作家などのイラストが
描かれている可能性がある。
これらの理由から、記述者の許可なく聖地巡礼ノートのページをそのまま公表すること
は控え、本稿で取り組んだように、何らかの分析を施したデータを公表すべきであろう。
5.おわりに
本報告では、アニメ聖地巡礼者の行動把握のための手法として、聖地巡礼ノート分析の
有効性と課題を明らかにし、書き込みの全体像の把握のために書き込みの数や頻度、書き
込みの整理をおこなった。
本報告では、前期ノートの1-A のみを分析したが、今後残る4 冊(1-B、2-A、2-B、2-C)
を分析する予定である。より詳細なデータを得られることが期待できる。
また、山村(2008)において、イベントやグッズ開発などを含めて鷲宮町の聖地化のプロセ
スに関して時期区分がなされている。そのような知見と書き込み頻度の推移の対応を検討
することも必要であろう。
加えて、書き込み内容に関して、現在の整理方法では、鷲宮町全体についての評価や、
商工会に対する評価、神社に対する評価、などが同一カテゴリに入っているため、整理方
法の改善も必要である。
今後の展開として、アニメ聖地巡礼行動の把握に関しての質的な分析の可能性がある。
巡礼行動、観光行動の中には、現地に何かを残してくる行動が含まれている。本報告で調
査をおこなった埼玉県鷲宮町に関しても、聖地巡礼ノートの他に鷲宮神社にイラストが描
かれた絵馬が残される現象が見られる。
また、このような行為はアニメ聖地巡礼行動だけに限ったことではなく、通常の旅行で
も、落書きをする、絵馬をかける、硬貨を水の中に投げ入れるなどが観察される。こうい
った行動は古くからあり、世界中のきわめて広範囲で見られる。聖地巡礼ノートの質的な
分析は、さまざまなケースと比較・検討することで、これらの人間行動の動機を明らかに
できる可能性を持っている。

http://www.cats.hokudai.ac.jp/~cats/pdf/20080714KankousouzoukenkyuNo.2.pdf

|

« ハルヒとYoutube | トップページ | らき☆すたで夏の思い出 »

らき☆すた Lucky Star」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/487205/23249747

この記事へのトラックバック一覧です: 聖地を分析する:

« ハルヒとYoutube | トップページ | らき☆すたで夏の思い出 »